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2025.05.30

【第2回】「持続可能な医療」のために(すべての人に健康と福祉を)

前回は、医療が持続可能でなければならない理由について触れてきました。
第2回では、SDGsの目標3「すべての人に健康と福祉を」にフォーカスして、「持続可能な医療」について考えていこうと思います。

【第2回】「持続可能な医療」のために(すべての人に健康と福祉を) ホワイト医療機関認定

はじめに

医療の現場で働く私たちは、毎日のように「誰かの健康」に関わっています。
診察やケア、手術やリハビリ——。患者さんのために最善を尽くすことが、医療従事者の誇りであり、やりがいであり、責任でもあります。

しかし、医療従事者の方自身の「健康」はどうでしょうか。

最近、しっかり眠れていますか?
体の痛みを我慢して働いてはいませんか?
心の疲れに、気づかないふりをしていませんか?

「持続可能な医療」は「現場の健康」から始まる

SDGsの目標3は、「すべての人に健康と福祉を(Good Health and Well-being)」というもの。
その「すべての人」には、子どもも大人も、高齢者も、障がいのある人も含まれています。「患者さん」も、そして、「医療従事者自身」も含まれています。
「健康に生きる権利」は、患者さんだけでなく、医療従事者にとっても当たり前に守られるべきものなのです。

持続可能な医療を考えるとき、どうしても「地域の医療体制」「診療報酬制度」「患者さんの数や高齢化」といった制度的・社会的な課題に目が行きがちです。
しかし、根本にあるのは、「そこで働く人が、安心して健康に働ける環境があるかどうか」です。
働き手が疲弊していては、どれほど立派な制度や理念があっても、医療は成り立ちません。
たとえば、スタッフの離職率が高い現場では、残ったスタッフに負担が集中し、ケアの質が下がってしまうことがあります。医師の過労が進めば、判断力や注意力に影響し、医療安全に関わるリスクも高まります。
これは、誰かを責める話ではなく、「健康な現場づくりこそが、患者さんにとっても安心につながる」という、ごく自然な因果関係です。

「助けを求められる職場」であることの大切さ

医療の世界では、「患者さんのために尽力する」という言葉が美徳として語られることが多くあります。
この考え自体はとても大切な価値観ですが、イコール「自分を後回しにする理由」にしてしまってはいけないと感じます。

「誰かの健康を支える人」こそ、自分の健康を軽んじるべきではありません。
疲れたときには「疲れた」と言っていい。
しんどいときには「助けて」と言っていい。

その空気がある職場は、間違いなく良い医療を生み出す現場です。
その職場は、きっと「人を大切にしている」と思います。

医療業界にも広がる「健康経営」

最近、一般企業の間で「健康経営(Health and Productivity Management)」という考え方が広がっています。
社員の健康を重要な資産と考え、働きやすい環境づくりや予防医療への投資を行うというものです。
この考え方は、医療の現場にも広がりつつあります。

  • 健康診断やストレスチェックの定期実施
  • 定時退勤を推奨する文化
  • 心のケアや、管理職への対応スキル研修
  • 明確な休息保障
  • 育児や介護との両立がしやすい勤務設計

法として整備されてきた部分もありますが、こうした取り組みは、スタッフの定着率を高め、患者さんに安定した医療を提供するための土台になります。

医療の「やさしさ」を、自分自身にも

目標3「すべての人に健康と福祉を」は、ただのスローガンではありません。
医療従事者が自分自身を大切にすること、働きやすい職場をつくること。
その積み重ねが「持続可能な医療」につながり、結果として患者さんの安心につながります。

「患者さんのために」と同じくらい、「自分のために」。
そのような医療社会であってほしい。
SDGsが教えてくれるのは、そんなまっとうで、あたたかい発想なのかもしれません。

次回は…

第3回は、SDGsの目標8「働きがいも経済成長も」にフォーカスします。
ぜひ、次回もお会いしましょう。

日本医療労働環境改善協会(JMWEIA)
岡田 詩穂