2025.06.02
さて、第3回では、SDGsの目標8「働きがいも経済成長も」の視点から、「持続可能な医療」について考えていこうと思います。
最近よく耳にする「働きがい」という言葉。
しかし、忙しすぎて、自分にそんな余裕はないと感じている方も多いのではないでしょうか。
特に医療の現場では、時間や気力を削って、患者さんのために日々奮闘することが当たり前になってしまいがちです。
「やりがい」と「働きがい」
本当は、その両方が両立することこそ、「持続可能な医療」には欠かせないのです。
SDGsの目標8「働きがいも経済成長も」では、「すべての人が働きがいのある人間らしい仕事をできるようにすること」が掲げられています。
この「働きがいのある人間らしい仕事」には、以下のような項目が挙げられます。
これを医療の現場に照らし合わせてみると、これらが「当たり前」にできている職場は少なくないと感じる方が多いかもしれません。
医療従事者の離職理由には、このようなものが挙げられます。
これらを見ると、専門職としての誇りや「やりがい」があっても、それを支える環境や待遇が伴わないと、「働きがい」が保てなくなる環境であることが想像できます。
「いい医療を提供したい」という気持ちが、「ここにいたら自分が壊れてしまう」に変わってしまう。
それは本人にとっても、患者さんにとっても、望ましい未来とは言えません。
最近、一般企業の間で「健康経営(Health and Productivity Management)」という考え方が広がっています。
社員の健康を重要な資産と考え、働きやすい環境づくりや予防医療への投資を行うというものです。
この考え方は、医療の現場にも広がりつつあります。
法として整備されてきた部分もありますが、こうした取り組みは、スタッフの定着率を高め、患者さんに安定した医療を提供するための土台になります。
私たちが目指す「持続可能な医療」とは、長く安定的に、質の高い医療を患者さんに提供し続けること。
そのためには、医療を支える人たち自身が、安心して、前向きに働けることが大前提です。
働きがいのある環境は、スタッフのモチベーションを保ち、離職率を下げるだけでなく、結果的に患者さんへのサービスの質も高めます。
チーム内の連携がスムーズになる、忙しさに追われず丁寧な説明ができる、感情に余裕を持って笑顔で対応できるなど、患者さんが「ここに来てよかった」と感じる医療体験につながっていきます。
働きがいのある医療現場を実現するには、「仕組み」と「文化」の両方が必要です。
例えば、労務管理の改善(シフトの見直し、残業時間の抑制)や、メンタルヘルスへのサポート体制、キャリア支援や学びの機会の提供、感謝や貢献を「見える化」する取組など、切り口や視点は様々です。
小さなことでも、取組を続けることで「この職場で働けてよかった」と思える瞬間が生まれてきます。
一人ひとりの医療従事者が、自分の仕事に誇りを持ち、前向きに働き続けられる環境。
それが、これからの「持続可能な医療」を支える土台になります。
患者さんにとって、信頼できる医療者がそばにいてくれることほど、安心なことはありません。
だからこそ、「働きがいも経済成長も」というSDGsの目標は、医療現場においてもとても重要なのです。
第4回は、SDGs目標10「人や国の不平等をなくそう」に焦点を当て、「誰もが医療を受けられること」ことについてお話しします。
次回もお付き合いいただけましたら幸いです。
日本医療労働環境改善協会(JMWEIA)
岡田 詩穂