2025.06.04
さて、本シリーズも折り返しの回に差し掛かりました。
前回までの2回では医療従事者を主軸にしたお話をしてきましたが、今回は、SDGsの目標10「人や国の不平等をなくそう」に焦点を当て、「当たり前の医療」について考えていこうと思います。
病気になったら病院へ行き、診察を受け、薬をもらう。
それが「当たり前」だと思っていませんか?
私たちが普段何気なく受け取っている、この「医療」という存在。
しかし実は、誰にとっても平等に開かれているわけではありません。
SDGs目標10「人や国の不平等をなくそう」が掲げているのは、「年齢、性別、障がい、人種、民族、生まれ、宗教、経済状態などにかかわらず、すべての人が、能力を高め、社会的、経済的、政治的に取り残されないようにする」ことです。
医療においても、この「不平等」は様々な形で現れています。
例えば、地域による医療機関や専門医の偏在。
例えば、経済的な理由で医療を受けられない人々。
例えば、子どもを連れていけない・休めない家庭の受診困難。
他にも例を挙げればキリが無いですが、このような「不平等」は全て、「医療へのアクセスの不平等」と言い換えることができます。
世界規模で見れば、発展途上国の医療の未発達などのイメージがあるのですが、今回の話では、日本で実際に起きている「不平等」に目を向けてみましょう。
都市部では24時間体制の救急や最新医療機器を備えた病院がある一方で、過疎地域では夜間に医師が不在で救急搬送も難しいという状況があります。
また、保険証を持っていない、言語が通じない、移動手段がないなどの理由で、「受診したくてもできない人」が、実際に存在します。
たとえ制度が整っていても、「現実的に届いていない人」がいる。
そのことに私たちはもっと敏感になる必要があります。
すべての課題を個人や一企業・団体で解決することは非常に難しいですが、まずは「不平等がある」という事実を知り、現場での小さな気づきを行動に変えていくことが大切です。
例えば、高齢者や外国人などに少し時間をかけて丁寧に説明したり、「来院が難しい方」に電話や訪問でフォローを入れたりするなど。そんな少しの心遣いでいいのです。
こうした一つひとつの行動が、「医療は誰のためにあるのか?」という問いへの、日々の答えになります。
医療の不平等に取り組むには、医療機関としての体制や意識も重要です。
これらはすべて、「誰もが医療を受けられる社会」に向けた一歩です。
前回まででも触れてきましたが、医療は一部の人のための特別なサービスではなく、「患者さん」のために在るものです。
そして、「患者さん」には誰もがなりえます。
つまり、医療とは本来、すべての人が等しくアクセスできる「権利」。
そして、その「権利」を守るためには、日々の医療現場にいる私たちが、「誰かが取り残されていないか?」と問い続けることが欠かせません。
不平等をなくすことは、ただ「優しさ」からではありません。
「すべての人が、必要なときに必要な医療を受けられる」未来をつくるために、私たちにできる大切なことなのです。
第5回は、SDGs目標11「住み続けられるまちづくりを」に注目し、地域医療やまちづくりと医療のつながりについて触れていきたいと思います。
それでは、また次回。
日本医療労働環境改善協会(JMWEIA)
岡田 詩穂