2025.06.06
第5回は、SDGsの目標11「住み続けられるまちづくりを」に注目し、「当たり前の医療」について考えていこうと思います。
「病院は、病気になったら行く場所」ではありません。
これからの医療は、「まち」とどう関わっていくか。
もっと言えば、「人がそのまちで、安心して暮らし続けるために、医療は何ができるのか」という視点が、ますます大切になってきています。
SDGs目標11「住み続けられるまちづくり」では、都市も地方も含め、「誰もが安心して、安全・快適に暮らし続けられるまちをつくろう」と掲げられています。
少し挙げるだけでも、交通、住居、防災、環境、公共サービス…、そして、「医療」。
「安全・安心のために必要なもの」の中に、「医療」が当たり前に数えられるのです。
例えば、高齢になっても通院しやすい交通手段があるか、小さな子どもを連れて行ける診療所が近くにあるか、ひとり暮らしでも、体調が悪いときに助けを呼べる環境があるか、災害時に医療体制が機能する仕組みがあるか…。
健康に暮らす」ことは、まちの機能と深くつながっています。
特に過疎地・高齢化地域では、病院や診療所が「最後の砦」となる場面が多くあります。
医療があるかどうかで、そのまちに「住み続けられるか」が決まってしまうこともあるのです。
例えば、「この町に病院がなくなったら、私たちはどこに住めばいいの?」という声が、訪問医療の場で出てくることもあります。
医療機関が存在するということは、単に診察を提供する以上の意味を持っているのです。
「病院」は、地域にとって単なる施設ではありません。
子育て中の親御さんにとっては「安心材料」。
高齢者にとっては「頼り先」。
働く人にとっては「日常的な体調管理の場所」。
災害時には「避難拠点や命綱」。
医療はまちのインフラの一つです。
医療が在ることで、人々は「ここで暮らし続けても大丈夫」と思えます。
私たち医療従事者は、病気だけを見ていては足りません。
患者さんがどんな場所に暮らし、どんな支えのなかで生きているか。
その背景に目を向けることが、「持続可能な医療」への第一歩になります。
誰かの暮らしに医療が寄り添えるなら。
そして、そのまちに暮らすすべての人が、安心して歳を重ねていけるなら。
私たちの仕事は、「まちの未来」に関わっていける仕事であるはずです。
SDGs目標11の観点から考えられる最も大きな課題の一つとして、日本は「すべての生活圏をカバーできる医療」という課題に直面しています。
かつて当たり前にそこにあった診療所が閉じ、かかりつけ医がいなくなる。
夜間や休日に診てくれる医療機関が少なくなっていく。
救急搬送のたらい回しや、医師の高齢化による事業承継の困難。
これらは、地方だけでなく都市近郊でもすでに起きている現実です。
地域医療は単に「そこにある医療」ではありません。
高齢者の健康を支え、子どもを安心して育てられる土壌をつくり、災害時には地域の命を守る最前線にもなります。
だからこそ、「医療人材が安心して地域で働き続けられる環境づくり」が大切になります。
地域で医療に携わることは、やりがいも大きい反面、孤立感や過重労働に直結しやすい構造があります。
その状態が続けば、地域医療を担う人材が集まらず、結果的に「住み続けられるまち」自体が崩れてしまいかねません。
「働きやすさ」や「人材定着」が、今後取り組むべき大きな壁となるでしょう。
第6回は、SDGs目標4「質の高い教育をみんなに」に注目し、医療の「学び」や「教えること」の意味について考えていきます。
ではまた次回、お会いしましょう。
日本医療労働環境改善協会(JMWEIA)
岡田 詩穂