2025.12.05
医療の現場では、患者さんの健康を守ることが最優先です。
これは、誰もが疑いません。
しかし一方で、医療機関で働くスタッフ自身の健康については、後回しにされてしまうことがあります。
「医療は忙しいもの」「患者さん優先だから」
そのような空気の中で、ギリギリの状態で働くスタッフが、まだ多くの医院で存在しています。
しかし近年、医療の質を考える上で、「働く人の健康を守る」という視点が欠かせないと強く認識され始めています。
医療機関のホワイト化は、勿論「スタッフのため」でありつつも、結果として、患者さんに提供される医療の質を守る取組でもあるのです。

医療行為は、高度な集中力と判断力も必要とします。
たった一つのミスが患者さんの安全や健康を脅かしてしまうこともあります。
だからこそ、スタッフが健康であることは、医療の質を支える根幹なのです。
しかし、現実には長時間勤務や人手不足、忙し過ぎる院内の空気によって、疲労やストレスを抱えながら働くスタッフは少なくありません。
疲れ切った状態では、判断ミスや集中力の低下、コミュニケーションのすれ違いが起こりやすくなります。
その結果、説明が雑になったり、手技が荒くなったり、判断が遅れたりなどして、インシデントやヒヤリハットが増えることがあります。
これは、スタッフの責任ではありません。
構造的に余裕の無い職場では、どれだけ意識が高い人であったとしても、ミスが起こる環境に追い込まれてしまうのです。
医療スタッフのメンタル不調は、離職につながるだけではありません。
パフォーマンスが落ち、コミュニケーションが乱れ、チームワークが崩れると、ミスが増え、現場全体へ悪影響を及ぼします。
医療における「スタッフのメンタル安定」は、技術研修や設備投資と同じレベルで重要なインフラですが、冒頭にお話ししたとおり、従来の医療機関では、「我慢する文化」が当たり前とされてきた風潮があります。
これを打ち破ることが、今後の医療機関の課題です。
医療とは少し離れますが、製造業を例に挙げましょう。
製造業においては、工程管理や品質管理が徹底されています。
異物混入や不良品を出さないためには、働く人が安全で余裕のある環境で作業をすることが前提だからです。
医療の質とは、最終的には現場スタッフのパフォーマンスの集合体です。
つまり、医療における「働きやすさ」は「医療の品質管理」そのものなのです。
この考え方は、今後の医療界でますます重要になっていきます。
働くスタッフが健康でいると、医院全体の空気が変わります。
健康でいるということは、気持ちに余裕があるということ。
気持ちに余裕があれば、説明が丁寧になり、手技が安定し、冷静な判断ができるようになります。
こうした機微は患者さんにも感じ取られやすく、良い変化は「安心して通える医院」という印象に繋がります。
また、特に近年、患者さんの選択基準は「技術力」だけではありません。
相談しやすい。
話をしっかり聞いてくれる。
院内の導線や説明が整っている。
このような患者さんが体験した内容が評価される時代です。
医療は、人の手があって初めて成り立つ産業です。
つまり、医療の質を支えるためには、人が健全でいなければならないということ。
「スタッフの健康を守る」ことが、「医院の質を守る」ことになり、それが束になれば、「医療の質が保たれる」ことに繋がります。
疲弊したスタッフに頼る医療では、患者の安心は成り立ちません。
スタッフが健康で、安心して働ける環境こそが、良い医療を生み出します。
ホワイト化はゴールではなく、患者のための医療を守り続けるためのスタートライン。
これからも、働く人と患者の両方にとって「安心できる医療機関」を増やすことが、医療界全体の質を上げる第一歩となるでしょう。
日本医療労働環境改善協会(JMWEIA)
岡田 詩穂