2025.09.16
今回で最終回となりました。
前回第2回では、医療従事者が求める条件と、医療機関はそれに対するアプローチをアピールする必要があるということに触れてきました。
第3回では、「よい職場環境づくりのための取組を、いかに『見える化』するか」をテーマに考えていきます。
なぜ『見える化』が重要なのか、どのように実行すべきか、そしてそれがどのような効果をもたらすのか。
今回はそれらについてお話ししていきたいと思います。
医療業界に限らず、働く人が職場を選ぶ基準として「環境の良し悪し」は非常に大きな比重を占めます。
給与や待遇、職場の雰囲気などの働きやすさが「長く働き続けられるかどうか」に直結します。
ところが、求職者にとって「現場の取り組み」は、外からはほとんど分かりません。
募集要項には給与や休日数は明記されますが、それさえもほんの一部です。
職種にもよりますが、例えば歯科衛生士1人に対する求人数は20件以上と言われています。つまり、歯科衛生士さんはその20件以上のうち1件の求人を受けて入職するわけです。
その1件に選ばれるためには、矛盾しているようですが「ほんの一部」の情報を充実させる必要があるのです。
どれほど環境改善に力を入れても、外部には伝わらず、応募や定着につながりにくい状況が続いてしまいます。
だからこそ、よい職場環境づくりと同じくらい、外部に「現場の取り組みを見える化」する戦略が必要となります。
見える化を行う際に重要なのは、「客観的な指標」と「取り組みの仕組み」を発信することです。
例えば、以下のようなものが挙げられます。
こうした数字は、職場環境がどれほど改善されているかを一目で示せる強力なツールになります。
さらに、数値に加えて「仕組み」を示すことも大切です。
例えば、「業務フローを見直し、ペーパーレス化によって残業削減に成功」「シフト作成時に育児中スタッフの希望を優先する仕組みを導入」など、取り組みの具体例を伝えることで、単なるアピールではなく「実際に工夫している職場」だと理解してもらえます。
数値や制度だけでは伝わりきらない部分を補うのが「人の声」です。
現場で働くスタッフの生の声ほど説得力のあるものはありません。
例えば、「子育て中でも安心して働けている」「自分に合った研修でスキルアップできた」「前職よりも残業が少なく、家族との時間が増えた」など、こうしたエピソードを短いインタビュー形式で公開するだけでも、職場の雰囲気がリアルに伝わります。
SNSや院内のホームページに掲載するのも効果的です。
最近では採用特化のホームページを設け、写真や動画を交えてスタッフの声を紹介している医療機関も増えています。
人材獲得の競争が激化する中、こうした「リアルな情報提供」が、求職者の心をつかむ大きな決め手になるのです。
見える化の効果は、外部へのアピールに留まりません。
取り組みを数字化・公開することで、スタッフ自身が「この職場は改善に取り組んでいる」「働きやすさを大事にしている」と実感できるようになります。
つまり、見える化はそのまま 既存スタッフのモチベーション向上や離職防止にもつながるのです。
「よい環境を作る→見える化する→スタッフが実感する→さらに環境が良くなる」という好循環が生まれれば、組織全体が持続的に成長していきます。
加えて、見える化のためにデータを集める過程で「どこに課題が残っているか」が浮き彫りになります。
改善点を把握し、次のアクションへつなげる意味でも、見える化は大きな価値を持っているのです。
ではこれまでの話を踏まえて、医療機関が実際に取り組める「見える化」の方法をまとめてみましょう。
これらのようなコンテンツを組み合わせれば、「よい職場環境を持続的に整え、それをしっかりと伝えられる組織」へと変えていくことができます。
「ホワイト医療機関認定」も、一つの指標として使うことができます。
詳細は『認定について』からご覧いただければと思いますが、数値で測れる「よい職場」の要件を認定項目として、その達成度により段階別の認定を行っています。
一目で「認定を受けている」と分かるアイコンとして示すことで、「安心できる職場」であることを外にアピールすることができます。
売り手市場の時代において、医療機関が生き残るためには「よい職場環境づくり」と「その見える化」を両輪で進めることが欠かせません。
給与や待遇だけでなく、「この職場で働きたい」「ここなら続けられる」と思ってもらえるかどうかが、採用と定着の分かれ道になります。
よい環境を整えることはゴールではなくスタートラインです。
整えた取り組みを、数値・仕組み・ストーリーとして可視化し、外にも内にも伝えていく。
これこそが、売り手市場を勝ち抜くための最大の武器となるでしょう。
医療機関は地域にとって欠かせない存在です。
その持続的な成長のために、「見える化」を戦略的に取り入れることを、ぜひ検討してみてください。
日本医療労働環境改善協会(JMWEIA)
岡田 詩穂