2025.07.03
「雰囲気が良さそう」「患者さんも多くて繁盛している」——。
求人票や医院見学でそんな印象を受け、就職先として決めたけれど、実際に働き始めたら給与が遅れたり、スタッフが次々に辞めていったり…。
最終的には経営が傾き、閉院に追い込まれるケースも珍しくありません。
つい最近も、そんな事件が報道されました。
千葉市で開業していた歯科医師が、インプラント治療の患者さん達から高額な治療費を前払いで集めたうえに、その治療を途中で放置。最終的には破産し、負債総額は18億円。詐欺の疑いで逮捕されました。
被害者は患者さんだけではありません。医院のスタッフも突然職を失い、生活の基盤を奪われたのです。
「信じていた医院がまさか…」
こんな事態を、私たちはどう防げばよいのでしょうか?
歯科医院で働くということは、技術だけでなく「安定した環境」があってこそ成り立ちます。
給与が毎月きちんと支払われ、スタッフ同士が適切な人数で配置され、休暇や研修がきちんと機能している。
こうした職場環境は、安心してスキルを磨き続けるために不可欠です。
しかし問題は、現在の環境では、就活段階では判断する要素がなかなか見えにくいということです。
見学では誰もが明るく接してくれるし、院内も整理整頓されていてきれいに見えます。
求人票にも「月給〇万円」「昇給あり」と書かれていても、それが実際に持続されているかどうかまでは、なかなかわかりません。
雰囲気や第一印象だけで判断してしまうと、「思っていたのと違う…」というギャップに苦しむことになりかねません。
さて、それでは、先程お話しした詐欺事件について、このように運営の傾いている医院を見抜くことはできるのでしょうか。
一つのポイントとして挙げられるのが、「きちんと昇給実績があるか」です。
単発の昇給ではありません。
「連続して」昇給実績があることがポイントです。
「ホワイト医療機関認定」においては、認定項目の1つに、「5年連続の昇給実績」を挙げています。
「ホワイト医療機関認定」は、医療機関の「働きやすさ」や「人材への投資姿勢」「安定した運営体制」などを、第三者が客観的にチェックし、一定の基準を満たした医院に与えられる認定ですが、この「5年連続の昇給実績」は、医院が毎年きちんと利益を出し、その利益をスタッフに還元していることを意味します。
表面的な「好景気」ではなく、長期的に持続可能な経営体制が整っているという、極めて重要なサインです。
昇給が毎年続いているということは、単に収益があるだけでなく、人材を使い捨てにせず、長く育てていこうとする姿勢が医院にあるということです。
逆に、数年単位で昇給がなかったり、スタッフの出入りが激しい職場は、「利益は出ていてもスタッフに還元しない」「経営が不安定」「精神的・肉体的な負担が大きい」といった問題を抱えている可能性もあります。
そして、こうした構造的な問題は、たとえ院長がやさしくても、患者さんが多くても、すぐには見えないことが多いのです。
だからこそ、客観的な制度に基づいた情報を就活生が活用することは、将来の自分を守る上で非常に重要なのです。
「アットホームな雰囲気だから」「診療スタイルが好きだから」。
そうした理由で職場を選ぶのも、間違いではありません。
ですが、同時に「長く安心して働ける場所かどうか」を見極める視点を持つことが、これからの時代には求められます。
ホワイト医療機関認定は、医療従事者が長く安心して働いていけるような職場を探す判断基準の一つとして打ち出されています。
就職活動は、ゴールではなくスタートです。
自分の未来を守るためにも、「見た目」や「印象」に加えて、「仕組み」や「実績」に目を向けてみてください。
そして、「ホワイト医療機関認定」がその助けになれば、幸いです。
日本医療労働環境改善協会(JMWEIA)
岡田 詩穂