2025.06.11
さて、本シリーズも最終回となりました。
前回までは各SDGs目標にフォーカスして医療との関係について考えてきました。
SDGsの視点で医療について考えたとき、「質の良い医療を長く広く提供すること」が重要であるとまとめることができます。
それこそが「持続可能な医療」であり、私たちがめざすべき医療社会の姿。
最終回となる第7回は、そんな「持続可能な医療」のための取組の一つという視点で、「ホワイト医療機関認定」について触れていきたいと思います。
「ホワイト医療機関認定」は、働きやすい環境づくりに真剣に取り組む医療機関を第三者機関が評価・認定する制度です。
労働環境や給与体制、社会保険への加入などの認定基準を定め、医療従事者が安心して働ける職場かどうかをチェックし、可視化します。
近年、医療従事者の離職や人材不足は深刻化しています。
過重労働、感情労働、人間関係の不和、キャリアの不透明さ——。
これらの問題が放置されれば、現場は疲弊し、結果として患者に提供される医療の質も低下してしまう。そんな危機感から生まれたのがこの認定制度です。
これは単なる「ホワイト」アピールではありません。
むしろ、医療機関として「持続可能であること」「地域社会にとって信頼できる存在であること」を社会に宣言する重要なステップなのです。
SDGsの目標8「働きがいも経済成長も」では、すべての人にとって働きがいのある人間らしい仕事を推進することが掲げられています。
医療の現場において、これは極めて切実な課題です。
多くの職場で人手不足が常態化し、そのしわ寄せが現場スタッフに重くのしかかり、患者さんへのしわ寄せになってしまっている現状があります。
そうした中で「働く人が長く、誇りを持って続けられる医療機関」であることは、まさにSDGsの実践であり、持続可能な医療の第一歩でもあるのです。
ホワイト医療機関認定の取得は、単に残業時間を減らすことや休暇を取りやすくすることに留まりません。
組織全体として「人を大切にする文化」を築くこと、それが結果として定着率の向上や患者満足度の向上に繋がります。
医療機関を選ぶ際、多くの患者さんは「評判」や「専門性」に注目します。
しかし、不特定多数による口コミだけでは実情が見えにくいのが現状です。
だからこそ、ホワイト医療機関認定のように、外部の評価によって職場の健全性を「見える化」することは大きな意味を持ちます。
これは医療従事者の就職・転職にとっても同じです。
自分がどんな職場で働くかを安心して選べるというのは、まさにSDGsの視点から見ても重要なこと。
健全な職場に優秀な人材が集まり、さらに医療の質が向上し、患者の信頼が高まり、また新たな人材が集まる——。そんな正の循環が生まれます。
地域の医療機関がこのようなサイクルをつくれるようになれば、その地域の「医療の持続可能性」は格段に高まるはずです。
「ホワイト医療機関認定」を取得すること自体がゴールではありません。
重要なのは、その認定と取組を通して、スタッフの安定した採用や定着が進み、盤石な組織として発展していくこと。
そして、それは単なる一法人の改革にとどまらず、医療社会全体の質を高め、継続していく取組でもあります。
私たちは、持続可能な社会のために「誰一人取り残さない」ことを掲げています。
それは、患者さんに対しても、医療を支える人々に対しても同じこと。
ホワイト医療機関認定は、その思想を医療の現場に具現化しようとする試みの一つです。
このシリーズを通じて、SDGsと医療のつながりについて少しでも考えるきっかけをお届けできていたら幸いです。
今後も、医療の現場から社会に良い波紋が広がっていくことを願って——。
最後までお付き合いいただき、ありがとうございました!
日本医療労働環境改善協会(JMWEIA)
岡田 詩穂