2025.05.26
「今日もお疲れ様でした! 次回はこの日で…、またお待ちしていますね!」
向日葵のような笑顔で送り出してくれる医院の受付の人。
その一言だけで、心が穏やかになる方もおられるのではないでしょうか。
病院を訪れたとき、「なんだか安心できる」「先生が丁寧だった」「スタッフの雰囲気が優しかった」と感じたことはありませんか?
逆に、同じ診療科でも「対応が冷たかった」「流れ作業のように感じた」と、どこか居心地の悪さを感じることもあるかもしれません。
その違いは、医療技術の差や建物・設備の新しさだけではありません。
スタッフの「心のゆとり」が、患者さんに提供する医療の質に影響を与えているのです。
医療現場は、毎日が緊張の連続です。
救急対応、患者さんの不安への対応、書類業務、説明責任、家族への対応――。想像以上に気を張る業務が積み重なっています。
それでも、多くの医療従事者は「少しでも安心してもらいたい」「丁寧に診たい」という思いを持って働いています。
ですが、人の心と体には限界があります。
過度な疲労やストレスは、余裕を奪い、本来の優しさや丁寧さを損なわせてしまうこともあるのです。
ある看護師さんはこう語ります。
「笑顔で接したいと思っていても、前の夜から仮眠もろくに取れていないと、どうしても表情がこわばってしまうんです。患者さんに悪気があるわけじゃないのに、きつく聞こえてしまったかもと後悔することもあります」
人間らしい感情や反応が求められる医療の現場だからこそ、スタッフが「元気でいること」は、医療の質に直結しているのです。
ここでいう「元気」とは、単に体力があるとか、明るく振る舞えるという意味ではありません。
むしろ、「心身ともに健やかでいられる職場環境があるかどうか」が、その根幹にあります。
例えば、無理のないシフトが組まれているか、お互いにフォローし合えるチーム体制か、意見や感情を出せる安心感があるか、管理職が現場に耳を傾けているか……。
挙げればキリは無いですが、こうした条件が揃って初めて、医療スタッフは「患者に向き合う力」を持ち続けることができるのです。
反対に、ギリギリまで疲弊している環境では、どれだけ丁寧な対応を心がけても、それを持続することは難しくなってしまいます。
医療従事者の「元気」を守るためには、組織的な取り組みも不可欠です。
勤務管理の見直し(過剰労働の是正)、休憩や有給の取得を後押しする文化など…。
こうした取り組みは、単なる「職員の福利厚生」ではありません。
「患者さんに、優しさと丁寧さを届けるための土台づくり」とも言えます。
「ホワイト医療機関認定」の認定基準も、こうした視点に基づいて設計されています。
認定そのものを目的にせずとも、その考え方を取り入れるだけで、院内の雰囲気は驚くほど変わっていきます。
高度な医療機器やAIの導入が進んでも、医療の現場において最後に人を支えるのは「人」の力です。
患者さんが安心して身を預けるためには、目の前のスタッフに「この人は信じられる」「この人は私を見てくれている」と感じられることが大切です。
そのためにも、まずはスタッフ自身が、安心して働ける職場であること。
それは単なる理想論ではなく、患者満足度の向上、ミスの減少、離職率の低下といった、医療機関全体の安定と信頼につながる現実的な戦略でもあるのです。
「スタッフが元気な病院は、診察も優しい」――
そんな医院が増えていけるような社会になればと思います。
日本医療労働環境改善協会(JMWEIA)
岡田 詩穂