2025.05.22
「ホワイト医療機関認定」の認定基準にスポットを当てる本連載、ついに最終回となりました。
第6回は、これまでの認定基準一つ一つのスポットから、「ホワイト医療機関認定」のめざす先について語ります。
病院やクリニックを選ぶとき、私たちは何を見ているのでしょうか。
「給与」「人間関係」「立地」……もちろん大切です。
しかし、本当に求めているのは、「この場所で安心して働けるかどうか」という感覚ではないでしょうか。
その「安心感」は、これまで「目に見えないもの」として扱われてきました。
ですが目に見えないがゆえに、人によって評価が分かれたり、誤解が生まれたりすることもありました。
だからこそ今、「見える安心」が必要なのです。
ホワイト医療機関認定は、「ホワイトな職場環境」を、測定できる基準によって評価・認定する制度です。
言い換えれば、これまで「なんとなく良さそう」とされていた働きやすさを、きちんと基準として整理し、目に見えるかたちで示すことを目的としています。
「うちはホワイトです」と言葉で言うことは簡単です。しかし、それが事実かどうかは、外からは分かりにくいこともあります。求人票に書かれた待遇や制度も、実際に使われていなければ意味がありません。
だから、客観的な視点で評価され、一定の基準をクリアしていると証明されることには、大きな意味があります。
「ホワイト医療機関認定」は、医療業界で働く人にとっての「選ぶ基準」であり、求職者にとっての「道しるべ」であり、そして、患者さんにとっての「信頼」の土台にもなるのです。
勿論、「人間関係がいい」「雰囲気が温かい」といった職場の空気感も、働く上でとても大切な要素です。
しかし、それは人によって感じ方が違い、制度としては測定が難しいという現実があります。
そのため、「ホワイト医療機関認定」は、「測れるものから整えていく」というアプローチをとっています。
それが、5つの認定基準です。
これまでお話ししてきた基準を、改めて振り返ってみましょう。
こうした項目をひとつひとつ確認し、「ホワイト」であることを客観的に証明する。
それが、医療業界における信頼の新しいカタチなのです。
「ホワイトかどうか」は、働く人や求職者だけの問題ではありません。
安心して働ける職場は、結果として、患者さんに提供する医療の質にもつながっていきます。
疲れ切ったスタッフがギリギリの状態で働いている現場と、適切な人員と休息が確保され、笑顔のある現場。どちらが、より良い医療を提供できるかは、言うまでもありません。
「ホワイト医療機関認定」のマークは、「この医療機関は、働く人を大切にしている」という目印にもなります。それは、求職者の方やそこで働いている方だけでなく、患者さんやその家族にとっても、一つの安心材料です。
「ここでなら、安心して働ける」
「ここに、大切な人を預けても大丈夫」
そんなふうに思ってもらえること。
それが、この制度がめざすもう一つの価値でもあるのです。
医療業界は、慢性的な人手不足と常に隣り合わせです。
そんな中で、働く人の選択肢や情報が限られているのは、大きなリスクでもあります。
ホワイト医療機関認定は、求職者にとっての「比較可能な指標」を提供します。
「どこが働きやすそうか」を、求人票の言葉やうわさではなく、客観的な基準で見られるようにすること。
それは、働く人に「選ぶ力」を取り戻してもらうことでもあります。
選ぶ力が高まれば、医療機関側にも変化が生まれます。
「働きやすさを整えなければ、人が集まらない」という現実が、現場を変えていくからです。
つまり、見えるホワイトさは、働く人だけでなく、医療機関そのものの持続可能性を支える土台にもなり得るのです。
「ホワイト医療機関認定」がめざすのは、「特別な制度」であることではありません。
目標は、「この認定がありふれる未来」です。
それはつまり、「働きやすさ」が業界全体のスタンダードになるということ。
すべての医療機関が、あたりまえに基準を満たし、安心して働ける環境が整っている。
今はまだ、その未来をつくるための「過渡期」です。
「ホワイトかどうか、よくわからない」
「見えない不安がある」
そんな悩みを抱える誰かに、この認定がひとつの光となりますように。
そして、自分らしく働ける場所に出会い、安心して力を発揮できる人が、一人でも多く増えていきますように。
ホワイト医療機関認定が、その第一歩を照らす存在でありたいと、私たちは願っています。
■おわりに
第6回まで走ってきた本連載。
ホワイト医療機関認定の制度や背景、現場に与える影響について、少しずつお話ししてきました。
目に見えない「働きやすさ」や「安心感」を、どうすれば見える形にできるのか。
そして、それが医療業界にどんな変化をもたらせるのか。
一つ一つの回が、医療業界で働く方々へのエールになっていれば幸いです。
「医療にかかわるすべての人が、自分らしく働ける社会をつくる」。
それはとても大きな目標ですが、小さな「見える安心」の積み重ねが、やがてそれを現実にしていくはずです。
この連載を読んでくださったあなたが、もし今、職場選びに迷っていたり、働く環境に悩んでいたりするなら。
どうか「見える」情報に目を向けて、安心できる道を選んでください。
そして、医療機関の方であれば、「誰が見てもホワイトと言える職場づくり」に、一歩踏み出すきっかけになればと願っています。
もし、患者さんが見てくださっているなら、「安心できる医院」を探す手がかりになればうれしいです。
このコラムが、誰かの背中を少しでも押せていたのなら、これ以上の喜びはありません。
最終回までお付き合いいただき、ありがとうございました。
また、別のお話でお会いいたしましょう。
日本医療労働環境改善協会(JMWEIA)
岡田 詩穂